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何を伝えたか?・・・

ある日、福祉施設の職員グループがアナンダに講習に見えて、実に真面目に、使命感をもって長時間、黙して紡ぎの練習に励んで行かれたのですが、私たちの胸の中に「とても大事な何かが伝えられなかった」という感じが残ってしまって、深く考えさせられました。彼らは趣味として紡ぎを習いに来たのではなく、仕事として、本人の好みに関わりなく、一日、真剣に取組んでいったのでした。アナンダには普段は紡ぎをしたいという欲望をもったお客さんしか来ないので、紡げるようになると自然に、全身から喜びが、隠そうとしても漏れ出てくるような感じになるのに慣れていたのでした。その日は、紡ぎ方は講習しても肝腎の中身、「しみじみとした」喜びを伝えることは出来ていない。

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グローバル化の時代に糸紡ぎ

何でも買える時代に、どうして、私たちは手で糸を紡いで何かを作ろうとするのでしょうか?動物の進化を考えると、私たちが、「群れを作って生きる有利さ」を獲得したのは、猿がヒトに進化するずっと以前からの事です。私たちに限らず、大きな象から小さな蟻に至るまで、多くの動物たちが、群の有利さを知って、群れて生きています。

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棲み分けと順位づけ

エコロジー(生態学)の興味は生物の個体、一匹二匹の事ではなく、個体が群れるあたりから始まる。虫の単純な群から、複雑な集団まで、例えば道徳や価値基準などを持った私たちヒトの社会までも含みます。環境との関わりの研究が進んで、今では地球の資源、気温、海、森林などが、虫や鳥などの群と同様にヒトの群にも、実は深く関わっているという事が解ってきました。当人達は意識しなくても、ヒトの社会の、その時代の価値感覚や道徳までもが、実は地球の平均気温が一度変動したせいだったのかな、と思わせるような研究も出てきています。

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山の豊かな裾野

ある登山愛好家たちの間では、あの山も登った、この山も登ったと、山の名前を並べる人を、多少の軽蔑の響きをもってトップステッパーと呼ぶのだそうです。山の名前は山の頂上に付いているものと信じている人々は、当然、頂上を目指して登る。そして、頂上が標高何メートル、世界で何番目というのが、とても大事なのです。一方、山を山麓から中腹、山頂までの全体として捉えている人々にとっては、山頂はほんの山の一端にすぎず、山と言えば、むしろ裾野から中腹を指しているのです。世界中からネパールにやって来て、ヒマラヤの中腹をトレッキングする人口の大きさを考えると、世界的にはこちらの方が、ずっと多いのでしょう。

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「光栄です」

もう、随分昔の話。ある日、知人が来て自分の失恋話しを始めた。性格の明るい人だから笑いながら話すに・・、すっと長いあいだ好きだった人がいて、それが遠くの人ではなく、近くに居て、いつも逢える人なのだが、いつまで待っても彼の方から何も言ってくれない。そこで彼女は、ある日、意を決して、「私はあなたのような人と結婚したい」と言った。すると、彼からは予期しなかった言葉、「光栄です」というのが返ってきただけだったのでした・・。「いったい、どういう意味なの、光栄です、って」と、まるで私達にその言葉の真意を問うかのように言って声をたてて笑った。私達も一緒に笑った。が、ふと彼女の顔がゆがんで、大粒の涙がぼろぼろと頬を伝って落ちたので、私達は、はっと、事の重みを悟ったのでした。

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