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近代技術の中での「暮らしと紡ぎ車」(1)

技術の近代化がもたらした英国植民地主義に対して、インドのマハトマガンディーは真正面から戦った。その象徴は、紡ぎ車だった。これは誰もが知っている事でしょう。が、まず、紡ぎ車のことは置いといて、技術の「近代化」とは何?なんとなくの理解ではなく、はっきり理解して、今の日本の身近な暮らしの視点から見てもらいたい。

近代化の典型的な話し。生物学の発展に大きく貢献した、ドイツの小さな顕微鏡工場ツァイスが近代化で世界のツァイスになった話し。

当時、東ドイツ。従業員5人くらいの小さな光学製作所ツァイスは対物レンズの色収差を補正した顕微鏡を作っていた。顕微鏡の対物レンズは焦点距離が短いので、倍率を上げると光がプリズムのように虹色に分かれてしまって、細部が良く見えない。それを、屈折率の異なるガラスのレンズを2枚3枚と重ねて、職人の技術と勘で色収差を取り除いていた。当時もすでに、ツァイスの名は優秀な顕微鏡で有名になっていたのだが。そこに、アッベという若者が加わって、複数のレンズの組み合わせの、全てのレンズの寸法や焦点距離、その誤差の許容値を計算して設定した。全ての誤差計測方法が決まっただけでなく、職人達の作業にもいちいち規準が作られて、検査規準も、組み立て手順も厳しく決め、「作業の分割」が実現した。これによって、顕微鏡の能力が桁違いに向上し、世界的に需要拡大したばかりではなく、その拡大した生産量を、何とわずか20人の従業員でこなし、その上、価格を25%も下げることに成功した。

200年ほど前に英国で産業革命が起こって以来、「作業の分割は生産効率を大幅に上げる」と言われたこの「優れた分割思想」は、大量生産に向いていて、現在も、私達の生活の全てに深くはびこって、引き続きその方向に進んでいる。勿論、悪いと言うのではない。非常な精度をもって事に当たる。

例えば動物の体を、胃とか腸、肝臓などの気管に分けて観察する。それを細胞、さらに細胞膜。細胞の中の、自分のDNAを持って呼吸をし、エネルギーを生み出しているミトコンドリアという、ちょっと奇妙な細胞内小気管(これが発見されるのに、顕微鏡の能力が決定的な働きをした)細胞の中のミトコンドリアの外膜と内膜を分け、その二つの膜の間あたりに30種類の物質を分離して、それぞれがどこで作られ、何の役割をしているか分析している。この近代技術、近代科学、近代産業、近代思想などと言う「近代」の特徴は徹底的に、半端ではなく、分ける事。その「分割」の程度は、私達が日常の暮らしの中で言う「分業」とは別物。江戸時代からの「餅屋は餅屋」「得た事して買うたが良い」などと言う、のどかな「分業」なら、古代エジプト時代からも、日本の石器時代からも、石器作りなどでは「分業的」な事が始まって居た様だし、こんな自然な「分業」と近代技術の「分割」とは全く別物で、近代化の方は桁違いの精度と言う以上に、人の心の混入を許さない合理性、職人の勘とか魂とかは徹底的に排除されて、部品の寸法誤差の許容値内なら合格。その部品の担当者は他の部品の事など当然、知らなくて良い。製品全体に職人の心などは近代技術の邪魔にはなっても利益にはならない。不満が有る者は「居酒屋で愚痴ってろ」・・・最近は居酒屋も少なくなって「独りでメールで愚痴ってろ」?なのです。

問題は、その優れた近代技術に欠陥が有るというのではなく、その分割思想で出来た合理的な空気にヒトが適応して生きようとする、その「私が生きる」と言う「柔軟」な生命、または「頼りない」自己の方に深刻な問題が生じて来ているように見える。

ヒトの祖先は森林で樹上生活をしていたサルだが、環境の変化で森林が減り、地上に降りて生活することとなった。この変化は彼らにどれほど大きな努力を強いたことだろう。地面を立って歩き、遠くを見て、平原の野獣に注意を払いながらの食物採取。今、今度は地上の生活から出て、この近代化の分割思想が作った「分割社会」に適応するために、樹上生活から平原に降りる時の苦労のように、懸命に、神経を病んででも、慣れるための苦労を強いられている。

そんな所で頑張らなくても、他に、うまく人間中心の手作り思想の空気を作り出す道は無いのだろうか?ミミズのように身辺の生活の土壌を改良して、個々の存在を大事にした、近代技術も適当に使っての超近代社会は出来ないものだろうか?

「自給自足」に憧れて沖縄の田舎に移り、何かを始めようとしているカップルや、自分でラーメン屋をインドで始めるのだとか、インドで服を生産して日本で自営業を始めようなどと考えている若者達に最近、幾人も出会った。やはり、平地で、周囲を見て触れて感じ取り、自分の生活を把握して判断でき、工夫して食物を得て暮らしていく自営業の空間が日本にもっと拡大すると良いなと思う。学校教育は大企業の「分割された作業」向けなので、世界はそこしか無く、卒業前は就活しかないようになっていて、自営業について教えてくれない。が、アナンダは個人の「連続性の回復」の仕事なので、自立自営業について応援したい立場だよと、はっきり若者達にアピールしておかなければならない。・・・・・阿