エコロジー(生態学)の興味は生物の個体、一匹二匹の事ではなく、個体が群れるあたりから始まる。虫の単純な群から、複雑な集団まで、例えば道徳や価値基準などを持った私たちヒトの社会までも含みます。環境との関わりの研究が進んで、今では地球の資源、気温、海、森林などが、虫や鳥などの群と同様にヒトの群にも、実は深く関わっているという事が解ってきました。当人達は意識しなくても、ヒトの社会の、その時代の価値感覚や道徳までもが、実は地球の平均気温が一度変動したせいだったのかな、と思わせるような研究も出てきています。
続きを読む 棲み分けと順位づけコラム
山の豊かな裾野
ある登山愛好家たちの間では、あの山も登った、この山も登ったと、山の名前を並べる人を、多少の軽蔑の響きをもってトップステッパーと呼ぶのだそうです。山の名前は山の頂上に付いているものと信じている人々は、当然、頂上を目指して登る。そして、頂上が標高何メートル、世界で何番目というのが、とても大事なのです。一方、山を山麓から中腹、山頂までの全体として捉えている人々にとっては、山頂はほんの山の一端にすぎず、山と言えば、むしろ裾野から中腹を指しているのです。世界中からネパールにやって来て、ヒマラヤの中腹をトレッキングする人口の大きさを考えると、世界的にはこちらの方が、ずっと多いのでしょう。
続きを読む 山の豊かな裾野「光栄です」
もう、随分昔の話。ある日、知人が来て自分の失恋話しを始めた。性格の明るい人だから笑いながら話すに・・、すっと長いあいだ好きだった人がいて、それが遠くの人ではなく、近くに居て、いつも逢える人なのだが、いつまで待っても彼の方から何も言ってくれない。そこで彼女は、ある日、意を決して、「私はあなたのような人と結婚したい」と言った。すると、彼からは予期しなかった言葉、「光栄です」というのが返ってきただけだったのでした・・。「いったい、どういう意味なの、光栄です、って」と、まるで私達にその言葉の真意を問うかのように言って声をたてて笑った。私達も一緒に笑った。が、ふと彼女の顔がゆがんで、大粒の涙がぼろぼろと頬を伝って落ちたので、私達は、はっと、事の重みを悟ったのでした。
続きを読む 「光栄です」変な子どもと立派な紳士
以前、鎌倉に住んでいた頃、私はもの書きに熱中していて、近所にそのための部屋を借りていた。細い裏通りに面し、通りから板戸を開けると猫のひたい程の庭があって玄関までのわずか二、三歩が、良い陽だまりになっていた。この通りは車が通らないので歩きやすく、朝夕などはけっこう人通りがあった。
続きを読む 変な子どもと立派な紳士お琴の稽古
子供の頃、姉は、多分嫁入り前だったのだろうか、毎日お琴の練習に励んでいた。それが、いつも、決まったように、おもむろに練習が始まったかと思うとまもなく、上手に弾けない自分自身に苛立って、終に、パチンと駒をなぎ倒すような音を立てて練習を終えたのでした。苦痛なら、お琴などやめれば良いと思うのだが、彼女にはその向こうに目的が有ったので、意地と根性でやり通さねばならなかったのでした。
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