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札幌のアースデイと北海道の羊毛、またはアナンダファームとウールミル

先日、北海道の札幌でアースデイという イベントが催され、アナンダも参加しました。それは地球を覆う産業社会の大量生産、大量消費、大量廃棄の社会に不安を おぼえ警鐘をならそうという人たちのイベントでした。私たちの身近な例として北海道で取れる羊毛の事、この羊毛のことはま さに象徴的な例です。

北海道には各地に羊の牧場があってラム肉を生産していますが、そこでは羊の内蔵、毛皮、さらに、刈取った羊毛の大部分も、残念なことに産業廃棄物として消却または肥料として地に埋められているとのことです。羊毛が廃棄されてしまう理由は、当然、牧場主が悪いのではなくて、個人的な努力にもかかわらず北海道全部の羊毛を集めても、今の大量生 産の経済環境から見れば少量すぎてコストが合わないのです。聞いた話しでは全部で7000頭~10000頭。羊毛の量は15トン程度。この量では、羊毛の分別、洗毛、整毛、撚りかけなどの設備に投資して、さらに商品化までの手間を考えると、よほどの特殊な技術と工夫がない限り世界の量産品に勝ち目はないのです。

日本では羊毛の廃棄はだから仕方がない事なのだ。とは、心にひっかかるものがあって、どうしても言えない。「羊毛がかわいそう、アナンダが毛の洗い方や紡ぎ方、フェルトの作り方など何でも教えるから牧場へ行って毛をもらって来ましょう。セーターやスリッパ、バッグや帽子、マフラーなどを自分の手で作りましょう」と、もっと大きく宣伝したいが、 都市で暮らす人には時間もないし、原毛から手作りの素晴らしさを知らない。この現 実、人類と羊との古代からの永い歴史を持ち出すまでもなく、羊毛を捨てざるを得ないこの大量廃棄の社会環境は、取れたお米を消却したり地に埋めて肥料にするくらいの異常さを感じる。これは何かがおかしい。いつか経済よりも人の心に無理が来るのでは ?  さて、やっぱり、この頃「癒し」という言葉が流行って「癒し産業」が繁盛している。そこでストレスが癒されると、人々は 再びもとの社会のシステムにもどって行く。アメリカではインドの紡ぎ車、チャルカーで綿糸を紡ぐ「癒し」が流行っているとの事です。

しかし紡がれた綿糸は布に織られる事はほとんどなく、糸は結局捨てられる。だとしても、この社会では仕方のない事だ。とは、これもどうしても心にひっかかるものがあって言えない。しかし、これは他人ごとではないのかも知れない。物資のあふれる21世紀に、紡ぎ車と原毛の販売をしているアナンダも「紡ぎ車のリズムを暮らしに」ではきっと済まなくなる(?) 。 アナンダはこの産業社会での手作りの暮らしについて何かはっきりした現実の提言を要求 されているように、最近は、特に感じます。例えば、手作りの結果出来た「もの」が個人的な範囲、家族や友達のため、の範囲を超えて社会と関わる、つまり経済を伴う形 式を持ちたくなると、今は、何となく商店に作品を置いてもらう。とか、地方のクラ フトフェアーに出店する。個展、工房、教室、また公募展で権威をつけた自称作家など。きっとその形式では済まなくなる(?)。

日本では小規模の町工場はもうずっと以前に大量生産の流れに消されてしまった。しかし、新しく再来する賢く進化した小規模自営が、もしかして、現れて来るのではな いかという感じが、近頃しませんか ? それは、20年も以前に、日本の農業に、無農薬、有機農業の手作り素人農家が増えて、次第 に現実に手作りの経済が自立していった事を思い出すのです。当時、大規模化、機械化する農業の方向とは逆の方向だし、村では虫が発生して困るなどと嫌がられたのに、・・・・。

例えば、アナンダが小さな牧 場を持ち、羊を必要最小限飼って、毛を刈り取って洗い、整毛して毛糸や毛布、フェ ルトマットなどに加工するウールミルを始めたとします。もちろんこの話しは次世代の話しだとして、物を作る力量にもよりますが、少人数で自営経済が可能な時代が来るのではないかという気がします。

社会が大量生産の産業社会へ変化する過程で生じた個人の暮らしとの問題は、スウェーデンは日本より50年から100年は先を進んでいる。今回のアナンダのスウェーデングループ旅行で、ウッラカーリンさんの紡績ミルをはじめ、ゴットランドの家族経営の牧場や工房など、たくさん訪問しその環境と暮らしに接して来た結果は・・・。

これは単純ではなく、正直なところ端的に言うのは難しい。だけど、将来、ウッラカーリンさん一家が「クラフトスクール」のアイデアを育てようとしているように、日本でも、これまでは物の製造が中心だった工場から、物にわずかに付随していた無形の精神的な部分が大きな比重になる方向に進んでいる事は確かです。単なる町工場ではつぶれるし、単なる牧場ではつぶれるし、単なる材料屋でもだめ。街の材木屋でさえホームセンター的な、木工教室的な試みを始めていますよ。

(阿)会報 糸ばたかいぎ 2007年夏号掲載
(イラスト-まんがポエム”紡ぎ”)